<ECLIPSE>

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名を借りた手紙
自分の一生を外部から回顧してみると、特に幸福には見えない。しかし、迷いは多かったけれど、不幸だったとは、なおさらいえない。あまりに幸不幸をとやこう言うのは、結局まったく愚かしいことである。なぜなら、私の一生の最も不幸なときでも、それを捨ててしまうことは、すべての楽しかったときを捨てるよりも、つらく思われるのだから。避けがたい運命を自覚をもって甘受し、よいことも悪いことも十分味わいつくし、外的な運命とともに、偶然ならぬ内的な本来の運命を獲得することこそ、人間生活の肝要事だとすれば、私の一生は貧しくも悪くもなかった。外的な運命は、避けがたく神意のままに、私の上をすべての人の上と同様に通り過ぎていったとしても、私の内的な運命は、私自身の作ったものであり、その甘さにがさは私の分にふさわしいものであり、それに対しては私ひとりで責任を負おうと思うのである。

― ヘッセ (高橋健二・訳)


昨日早稲田で、凍りつく雨から逃れるように彼女に会った。私はその友人Sのことを、心から尊敬し、愛している。そして不思議なことに、彼女と私はなぜかいつも同じような心の軌跡をたどっている。私たちの談話の結果は毎度まったく要約を許さないのだけれども、とにもかくにも昨日その過剰に甘いキャラメルラテと爽やかなカモミールティーの間に落ちていた共感は、「疑わしい」ということだった。

私たちはもはや以前のように若い情熱に浮きたった結論を導き出すことはできなかったし、また世界を一つの世界として語ることもできなかった。言うなればすべては宙吊りの状態に―もどかしさとも、悲しみとも、偽善とも、同情とも言えない状態に―されてしまっているように感じられた。私たちが世界と呼んでいたものは各々の旅によって実像を失い、それに対して私は、少なくとも私の場合は、いかなる想像力を持ってしても埋めることのできない細部を情熱や怒りで補うことなどできはしないのだ、ということに呆然としているのだった。まだ世界が簡単だった頃、私たちは世界に憧れ、正当な興味と産声をあげたばかりの信念を持って旅に出た。

そして出会った、共感不可能な他者。自らの存在基盤を揺るがすような他者。私たちと違う言葉を持つ人々。私たちはたぶん、自分を訪ねていった地で、思わず他者の訪問を受けた。メディアに敷衍されているイメージになどにはとても回収しきれないものが絡み合った世界で。人間は自分が理解できないものについて、しばしば怒る。そしてその抵抗の無力さを知って、やるせない気持ちになる。私たちを苛立たせる他者との関係の複雑さ、それは今は私たちが何かシンプルなものを見失ってしまったかのように思われるかも知れない。精巧な思考を失ってしまったようにも。視界が曇ってしまったようにも。しかしたぶん、私たちはやっと、ついに他者と出会ったのだ。きれいな言葉で要約することのできない、不可捉な他者と「わたし」という関係に引き入れられたのである。

私たちはいつも人間を探している。人間の真理を自らの生と引き合わせようと日々悶々としている。けれども書物にあるような人間の普遍性すなわち真理は、書物から学ぶことも作り上げることもできなかった。思うに、私たちは他者との出会いによって、真理を探求するということを今やっと始めることができたのではないだろうか。私たちはやっとここから、真理を体得するそれぞれの旅に出ることができるのではないだろうか。求めていたものがイメージとは違うあまりに、またその感覚があまりにも衝撃的であるために、そしてそれにも関わらずひっそりと滑りこんでくるあまりに、それと気がつかないことがある。私たちはたぶん、世界の有り余る複雑さをこの身に引き受けることによって、自由というものを体験しているのだと思う。私たちは宙吊りにされた中間地点にいる。そしてうろうろしている。文脈を変えれば何もかもが真になってしまうように感じられるから。でもそれを知ることが、文脈を越えた何かを自分の手で探り当てていく第一歩なのだ。私たちはきっとこれからもっと多くの出来事と向き合い、出来事に参加し、そのたびに今と同じ苦しさを抱えていかなくてはならないだろう。たぶん現在の心情は一時的な現象ではないだろうから。そしてその都度私たちは口ごもり、沈黙を余儀なくされるだろう。沈黙を守ることは時に痛みを伴うだろう。けれどその沈黙の間に、何かが芽生える。それは確実に育っていく。私たちは辛抱強く、自らの庭を耕さなければならない。大雨に降られても、突風に煽られても、日照りが続いても。

一見どうにもならない袋小路に行き着いてしまったように感じられる今、世界はより豊かになったのだ。すべての回り道を試せるほどに、私たちの命は長くないだろう。けれど私たちは迷いに迷うこの都市の中で、もどかしさを抱えながら確かに痕跡を残していく。それは決してかっこいいものではないかも知れないけれど、私はこのアスファルトで覆われた大地に、けもの道をたどる覚悟を決めたいと思う。そしてそういうふうに生きることを、あきらめないでいようと思う。

















































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☆Author: 久美子
生まれ変わるなら、星か鳥になりたいと思う。
地上に「愛」が存在するならば、すべてを愛し、すべてに愛されたい。
命の灯をともして、日食の闇に、うごめく。



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